Let’s 入院生活
前回、着の身着のまま入院した僕ですが、明らかな強迫の症状が出てから、かれこれ五年くらいは経過していました。
それまでは薬も飲まず、強迫性障害という病気があることは何となくわかってはいたものの、自分がその病気だと認めるのもなんだか抵抗があり病院に行ったことすらなかったです。
ちなみに、「精神科入院ってどんな感じなの?」と興味のある方もいるかもしれないので、僕の入院した病院を簡単に紹介します。
- 横浜にある割と大きな精神病院(300庄くらい)
- 閉鎖病棟で鬱病、統合失調症の方が多かった(強迫の人は他にいなかった)
- 個室と大部屋の両方あった。この病棟だけで50床くらい。
- 男性の看護師さんの割合が多かった
- 食事は大広間で全員一緒に食べる。シーツは自分で変える。(規則正しい集団生活を送らせるため)
入院当時は状態が良くなかったので、「なるべく刺激の少ない環境で」という主治医の判断で個室に入院になりましたが、同じ理由で家族とは面会NG、連絡もNGでしたね。
入院してすぐに薬を飲み始めたのですが、これが初めて飲んだ精神薬で「ルボックス」と「ワイパックス」を一週間ごとに増やしました。
ルボックスは三週間かけて使用量の限界まで飲んでワイパックスは朝昼晩で三回飲んでいました。
どんどん悪くなる
こんな感じでようやく治療が始まった訳ですが、「やっと薬を飲んで楽になれるのか」とおもいきや……正直全然よくならなかったですね(笑
むしろ、入院しても手洗いは一向に収まることもなく、個室に洗面台があることも相まって、日に日に手洗いは長くなり、入院してもぶっ続けで三時間くらいは手を洗い続けていました。
※※誤解のないように捕捉しますが、この後に主治医から聞いたところ、SSRIが効いてくるのは一般に三週間くらいはかかるそうです。
入院初期の僕は、髭はそれないシーツも変えられない、あれもこれも触れない、食事も共同部屋で取れない、洗面台は石鹸カスだらけと入院患者さんの中でもあまりないケースだったため、とにかく掃除のおばちゃんに嫌われてました(笑
前述したように、この病院は鬱病、統合失調症の方が非常に多く、規則正しい生活を送らせることが治療の一環でした。
なので、そこに一切参加せず病院の施設もきれいに使えない僕はいわゆる「甘えている人」と見られることもあり、僕の病状を理解してくれているのはH島先生だけでした。
あまりはっきり覚えてはいないですが、看護師さんだか掃除のおばちゃんだかに「ポジオさん!●●は自分でできますか!?」みたいなことを機嫌の悪そうな口調で言われたこともありました。
そんなこんなで入院してからも、病状はどんどん酷くなり、「ここは汚れた」と感じる場所もどんどん広がり、H島先生からも「また、不安になってしまったんですね。正直、悪化していますね。」と言われました。
入院初日はまだよかったんですけどね……何しろ、この病院は初めて訪れた場所だったので僕が怖かった「よくわからない汚れ」はそこにはなかったので。
なのに、どんどん広がっていく「よくわからない汚れ」がある場所は病院中に広がっていって、そこを触るたびに何時間も手を洗って、精神的にも肉体的にもどんどん疲弊していました。
そんな入院生活でも救いがあったのは、毎日夕方のH島先生の診察の中で自分の気持ちを話せることで、いつもいつもH島先生は話を聞きながらこんなことを言っていました。
「そうですか。また不安になってしまったんですね。」
森田療法を読んでみた
実は入院前も入院した時も、もう一人僕を支えてくれていた人がいました。
Sさんは中学の頃の同級生で、僕が大学受験に失敗した割と直後に出会って付き合っていた人で、半ばヒモ同然(というか完全なヒモ)の僕を献身的に色々支えてくれていた人でした。
入院して家族と面会禁止だった僕でしたが、唯一彼女にだけはあまり汚れを感じなかったこともあり、衣類の用意や差し入れなどで彼女の病院の出入りを許可してもらってました。
そこで、入院してから一週間、二週間と病状が悪化する中で、彼女に一つのお願いをしたんです。
「強迫性障害の治療で有名な”森田療法”という本があるらしいので買ってきてくれないか」
森田療法は、わが国の精神科医、森田正馬(もりたまさたけ)(1874~1938)によって創始された神経症に対する独自の精神療法です
精神科応急入院指定https://morita-jikei.jp/morita_therapy/
すでにご存じの方もいるかもしれませんが、森田療法というの100年以上前から存在する日本独自の精神療法で、特に不安系の精神症状に効果があるとされています。
また、一時期はサラリーマンのストレスコントロール法として話題になったこともあるとかないとか…とはいえ、正直お伝えすると、森田療法をそのまま治療用に勉強するのはお勧めできません。
なぜかというと、思想というか哲学というか仏教的な考え方のことが含まれていて、僕はとっつきにくいと思っています。
Sさんが僕のお願いで買ってきてくれた本は岩井寛先生という精神科医が亡くなる直前に書いた「森田療法」という書籍で、森田療法を少し現代的に解釈してわかりやすく説明してくれた本になります。
(それでもとっつきにくいのですが…)
この本の中では、「神経質者の考え方(とらわれ)」「強迫行為はなぜ強迫観念を強くするのか(精神交互作用のメカニズム)」「心と体のつながり」等々が書かれていました。
この本を読み、
森田療法の考え方を知り、
不安のメカニズムについて知った瞬間、
僕の心は晴れ渡り、
強迫観念は跡形もなく消え去ったんです!!
……
……
なわけない(笑
あとから分かったのですが、この本を読んで僕が最初に知った重要なことは大きく二つありました。
「不安」を完全に取り除こうと行動(または意識)すればするほど、その行為は「不安」を意識しているということになる。そして、「不安」を完全に取り除くことは現実的にはできないから、結局、この行為は「不安」を増大させているだけである。
「不安」は自分の外側のあるのではなく、自分の内側から生じてくる感情そのもの
もちろん最初からきれいに解釈をしたのではなく、雰囲気こういうことなんだなと感じたんだと思います。とはいえ初めは「( ´_ゝ`)フーンアッソ」くらいでしたけど…
僕のブログでは度々この書籍が出てきますので、もし興味があればご覧ください。
強迫観念を受け入れる
森田療法の本を読んでからも全然症状はよくならず、入院して三週間経過した時点(森田療法読んでから数日経過)でもどんどん悪くなっていて結構な極限状態でした。
そんなある日の夕方頃に、Sさんが差し入れてくれた小さい袋に入ったオレオを一人で食べてたんです。
おいしかった…とてもおいしかったんです…なのに、昼間手洗いし続けてヘトヘトでベッドに寝転がっていて、もう超しんどかった…その時になんかふと思ったんです。
「指にこんなにオレオの黒いカスがついてるのに汚いと思わない…なのに、なぜいつも手を洗ってるんだろう…手を洗う時、なぜあんなに落ちない汚れを感じるのだろう…」
「あそこにもあそこにもある汚れって一体何なのだろう?確かに汚いと感じるし」
「H島先生は、いつもいつも「不安」っていうし、一体不安って何なのだろう?」
恐らく、投薬が三週間たって薬が効いてきたことも影響したと思いますし、森田療法の本を読んだこと、何度も何度もH島先生が「不安になったんだね」と言い続けてくれたこと、たまたまオレオを食べたことも重なったんだと思います。
「あれ?…もしかして、この汚れって…不安……不安ってこと?」
「確かに汚いと感じるし手洗いしないと我慢できないけど、俺って不安なのかな?」
「一生懸命手を洗ったり、床を拭いたり、消えない消えないと思っていたけど、不安だから消えないってこと?」
「不安ってことは感情でしょ。不安は自分の外側にあるものではなく、自分自身の内側からでてくるものだよね…感情だからいくら洗っても消えないよね…」
この時にこう考えたんです。
自分の中には「不安なだけだとわかっている自分」と「不安を汚れだと思って必死に洗っている自分」の二人がいて、どっちも自分なんだけど、後者の自分は何年も不安でたまらない状態で疲れて果てているんだと。
だからこそ、前者の自分は一緒になって「怖い怖い」と手を洗うのではなく、疲れ果てるまで強迫行為をしているもう一人の自分に「大丈夫。怖いだろうけど大丈夫。不安なだけ。」と優しい気持ちで受け入れてあげるべきなんじゃないかと。
今でもよく覚えていますが、この時になんか頭の中でグニャ~ってする感じがしました。
それと合わせて、なんだか今ならスムーズに手を洗える気がしたんです。それでそのまま部屋に設置してある洗面台で、強迫行為を手順通りにうまくやることで強迫観念に抗おうとするのではなく、強迫観念を抑えよう抑えようとあれこれと方法を考えるのでもなく、強迫観念は怖がっている自分自身だと考えて、むしろ怖がっている自分(強迫観念)を優しい気持ちで受け入れてあげる気持ちで手を洗ったら…
3ターンで手洗いが終わったんです!!
※当時1ターン3分くらだったので1時間で20ターンくらい
まぁ、いきなり一回になったとかではないんですが(笑。
当時はもう嬉しくて嬉しくて、その日の夜にH島先生に手を洗っているところを見てもらいました(笑
というわけで今回はここまでにしたいと思いますが、実はこの日に起きたことは強迫性障害の治療でも使われることのある、「いくつかの考え方」にたまたま気付けただけというのが真実になります。
この「いくつかの考え方」はとても重要な話で、この先も続く認知行動療法の根幹になります。次回は皆さんにわかりやすいように図解入りで解説したいです。
このエピソードはこの後続く治療の始まりに過ぎないのでまだまだ結構続きます。拙文ではございますが、ご興味がある方は是非お付き合いいただければと嬉しいです。
コメント