本格的な治療の開始
不安階層表とゲーム風治療
前回、遂に手洗いに改善の兆しが見えた僕ですが、その時は本当にもうただただ嬉しく、その日の夜に主治医のH島先生の「強迫観念を自分自身の感情だと受け入れること」で手洗いが3ターンでできるようになったことを話しました。
最初は「手洗いしているところを私が見ても大丈夫?」と、さすがのプロの視点で疑っていましたが、実際に目の前で2ターンくらいで終わらせられたのを見て、「まさに森田療法だね」と驚いていたのをよく覚えています
「森田療法がポジオさんにはぴったり合っていたのと、ちょうど薬を飲んで3週間だし薬がとても合っていたんだろうね。よし!それじゃ、明日から、本格的に認知行動療法を始めましょうか」先生はそう言うと颯爽と病棟に帰っていったのですが…
僕は「認知行動療法?」って感じでしたね(笑)
翌日、先生からまず指示があったのは「ポジオさんが不安に思うこと。つまり、強迫観念を感じるところをたくさんピックアップして、それをポジオさんが不快に感じる順番に並べていってください。一番不快なものがレベル100で。」とのことでした。
「それと、今日から日記を書きましょう。なんでも構わないので、今日あったことや感じたことを書いて毎日それを私に見せてください。」そう言って、まずは不安階層表の作成と日記療法が始まりました。
確か当時の不安階層表には数十個くらい強迫観念を感じる対象を書いた記憶があります。
レベル1は病室の壁を触るとかで、レベル100は僕が強迫性障害を悪化させた原因となった東戸塚駅に行くことだったり、自宅の自分の部屋に入ること(当時、汚染されていると感じていた)だったと思います。
出来上がった不安階層表を見てH島先生はこう言いました。
「これから不安階層表の不安度レベル1から順番にできるようにしていきます。いきなりレベル100のボスからやるとすぐにやられちゃうので、レベル1から順番にやっつけてレベルを上げていくんです。ほらRPGとかもそうですしょ?あんな感じ。」
率直に楽しそうと感じましたね。
今、思うと、あれも治療テクニックだったんでしょうね。さすがでございます。
認知行動療法を教わる
「さて、それじゃ早速、認知行動療法を始めましょう。と言っても、実質行動療法なんですけど、やり方を間違うとうまくいかないんですよ。」
先生はそう言って、不安階層表のレベル1の「病室の壁を触る」を例に挙げました。
先生「例えば、この壁を触ります。触った手が汚く感じますよね。そしたら、あえてその手を体の洋服とかにちょっと擦り付けます。」
ポジオ「(え…まじで…)」
先生「はい。ここからが大事です。そしたら、今度は自然体になって、テレビを見たり散歩したり本読んだり、何か他のことをして過ごしてください。大事なことは自然体ね。汚いと感じるからと言って手を不自然に体から離したりするのもダメですよ。頭の中で色々考えるのもダメです。あくまで自然体になって他のことを考えましょう。」
そういって、先生は「しばらくしたら戻ってきます」と言って病棟に去っていきました。
僕は「まじかぁ。これが暴露療法かぁ。」って感じでしたが、とりあえずやってみて、うろ覚えですが1時間とか2時間とか結構長いこと放置されていたと思います。
そして、しばらくして戻ってきた先生はこう言いました。
先生「ポジオさんどうです?」
ポジオ「あっ、本読んでました。」
先生「よし、それでは。もう一回さっきと同じことやってみましょう。」
ポジオ「(え…まじで…)わかりました…やってみます(渋々)……あれ?」
先生「さっきより不快感が小さいんじゃないですか?人間には誰しもこの能力が備わっていて、いわゆる慣れってやつですね。ただ、自然体じゃないとダメです。頭の中で「大丈夫、大丈夫」とかいうのもダメ。逆にそれが強迫行為になってしまう場合もあるので。森田療法的に言うと「あるがまま」に受け入れて自然体でいることがコツですね」
いやー当時はめちゃくちゃ感動しましたね!
確かに不快感(強迫観念)が小さくなってたんですよ。というかほとんど強迫観念を感じなかったのですが、レベル1だったのもあったのだと思います。
もちろん、必ず一発で改善するわけではなく、基本は何度も繰り返すことで段々と不快感が小さくなるものになります。
先生が言うにはレベルが高いのをいきなりやると悪化する場合があるので、まずはレベルが小さいもので色々練習しましょうとのことでした。
自律神経にも影響していたことを知る
さっそく、その日に次にやっつけようと思ったのは病院の「棚の上」でした。
「棚の上」というのは、入院した初日に自分的に汚れていると感じていたものをそこに置いてたため、それからずっとその場所は僕にとっては「汚れた場所」だったんです。
頭の中のイメージとしては、その棚の上の半球状に半径20センチくらいが汚れているため、触りたくもないし近づきたくもないという感覚です。
「見た目には実際に汚れているわけでもない…だけども、なぜか半球状に確かに汚れているようなイメージに見える(感じる)…」
とはいえ、すでにその時、僕は知っていたんです。
「ここには本当は何もない。そこにあるのは自分が作り出した不安そのもの。それは自分自身であり、拒絶するものではなく、受け入れてあげるべきもの。」※参考ページはこちら
確かにイメージとしては汚れていると感じる。だけども、本当の自分自身はそれが不安なだけだと知っている。そんな感覚です。
この感覚のままその汚染された半球に指をそっと近づけると…あれ?なんか指がピリピリする。
汚染された半球に入った部分だけがピリピリするんです(笑)
どんどん手を入れていくと、入れた分だけ手がピリピリするんです。
「あっ…そういうことだったのね…」
その時初めて気づいたんです。このピリピリした感覚を汚れていると勘違いしていたことを…そりゃ、何度洗ったって落ちない訳ですよ。だって、自立神経の感覚を石鹸で洗い流そうとしてるんですから。
そして、この半球領域(イメージ)に手を入れて、その後、自然体で30分くらい過ごして、「あっ、忘れてた」ってくらいのタイミングで再度その領域に手を入れると…
何にも感じないんですよ(笑)
その日の治療はそのくらいにして、日記にそのことを書き、先生とこの出来事を話しました。
僕「先生。僕はもしかしたら、この手がピリピリした感じを汚れていると感じ(二の腕くらいまで)を洗っていたんでしょうか?」
先生「あっ、気づいちゃった?(笑)」
「気づいちゃった?」じゃねーよ(笑)って感じですが、もう衝撃ですよね。なにせ、何年も苦しんできた強迫観念の正体がおぼろげに見えてきたんですから。
余談ですが、強迫観念のストレスは自律神経にも余裕で影響するくらい強烈なストレスということになります。
なので、自律神経がおかしくなる(神経がぞわぞわする。お腹が痛くなる。頭がクラクラする等々…)こともこの病気によくあることだと思っておくと予備知識として良いかと思います。
認知行動療法やりすぎてぶっ倒れる
こうなってくるととにかく治療が面白くてたまらなくなるわけです。一回やるだけどどんどん強迫観念が解消されていくんですから。
そして、認知行動療法を始めてから三日目くらいでしょうか。
H島先生が出張で一週間程度不在になるということで、「やり方も分かったと思うので、しばらくいませんが不安階層表のレベルの低い方からやってみてください。」そう言って、先生はどこかへ旅立っていきました。
まぁ、先生がいてもいなくてもやることは変わらないですし、とにかく解放感が楽しかったので、レベルの低い強迫観念を一日で何回もやっつけてたんです。確か、二、三日くらい。
そして、その夜…
僕「いやーなんかどんどんやっつけられて楽しくなっちゃってさぁ」
Sさん「へーそうなんだ」※Sさんについてはこちら
僕「そしたらさぁ…あれ……なんか…あっ…あっ……」
Sさん「え?ちょ…ちょっと!?」
この後、気絶しました(笑)
数分後目覚めたんですが、なんか感情が出ない感じというか、Sさんを見ても「え?誰この人?」みたいな頭が回らない感じというか、すごいボーっとしてるんです。
それと、全く体に力が入らなくて、歩くことができなくなりました。
看護師さんももちろん病室に来たんですが、「H島先生もいないし…判断もできないので…少し安静にしてましょうか」みたいな感じで三日くらい手すりがないとまともに歩けない状態になったんです。
いったい自分の身体に何が起きたのか…不安な面もありましたが、とにかくボーっとして上の空みたいな感じでした。
そして、割と普通に歩けるようになった四日目に、散歩がてらお見舞いに来たSさんと病院散歩をしたんです。(隔離病棟ですが、症状によっては許可制で院内散歩可)
「やっと歩けるようになったけど、なんか感覚が違うんだよなぁ」と感じつつも、院内にある卓球台を見た時にふとこう思ったんです。
なんか卓球もできる気がする…
ちょっと意味わからないと思いますが(笑)、入院前の僕の症状は落ちたものなんて100%絶対に拾えません。落ちたとしたら手袋とかビニール袋越しに拾ってそのまま、落ちたものも自分もお風呂で洗わないと気がすみませんし、靴紐だって結べません。
そんな症状だったのに、なんか卓球できる気がしたんです。
そして、恐る恐るやってみると……落ちたボールも拾えたんです……割と普通に卓球もできる…
それどころか、「なんか強迫観念が圧倒的に弱くなっている感じがする…」とも感じる。いったい何が起きたのかよくわからないですが、とにかく良くなってたんです間違いなく。
その翌日に出張から帰ってきた先生のこの一連の出来事を話しました。
先生「倒れたんだって?しかも卓球やったんだって?」
僕「かくかくしかじか…こんなことがありましたて、突然ボーっとして、歩けなくなったんです。」
先生「まず、第一に行動療法やりすぎだね(笑)あれってすごい脳に負担かかるからちょっとずるやらないと」
僕「(先に言うとといてや)…それで、その後、なんか突然色々なことができるようになったんです」
先生「う~ん。話だけ聞くと統合失調症の前兆のような感じもするけど、見た感じそんなこともないし…まぁ……結果オーライってやつ?(笑)。未来の医学で解明される何かってことで良いのでは無いでしょうか。」
僕・先生「ゲラゲラ(笑)」
こんな感じでフワッとこの会話は終わりました(笑)
ちなみに、認知行動療法(暴露療法)は先生の言う通り、物凄い負担がかかります。1日1回くらいにしておいた方が無難ですが、根性がある人でも二、三回くらいに収めておくことをお勧めします。
劇的な改善、そして母の襲来
結果から言うと、ここからの回復が劇的でした。
毎日、認知行動療法を続け、手洗いは1,2ターンくらい。髭もちゃんとそれるようになり、病院のお風呂もきちんとつかれるようになり、食事も個室ではなく大広間で他の患者さんと一緒に食べるようになりました。
なんだか、できるような気がして看護師さんと握手してみたり、入院当初喧嘩していた掃除のおばちゃんとも仲良くなりました(笑)
あまりに順調すぎて、「これはもはや治ったんちゃう?」と思いましたね。
そして、そんなある日、毎晩の先生との会話の中でこんなやり取りがありました。
僕「先生。僕、かなり調子いいです。今すごく楽しいです。病院で感じる強迫観念もどんどん減ってますし、下手したら治りましたね!」
先生「確かに私もびっくりしてます。そろそろ外出してみましょうか。」
僕「やってみます!」
先生「あっ、そうだ。ご自宅に順調と電話したんですが、お母さんがお見舞いに来たいと言ってましたよ。」
僕「えっ!?…(手がギュー!!)」
母襲来と聞いた途端、過緊張で手がギューってなってほどけなくなったんです!まぁ、自宅が一番汚染されていると感じてたので、そこに住んでいる家族は皆汚染対象だったので…
僕「なにこれー」
先生「うーん。やっぱりまだ全然だめですね…お見舞いはまた今度にしましょう。」
先生は「ではさらば!」って感じで去っていきました(笑)
数分後に過緊張が解けたら、また一時間くらい立てなくなりました(笑)
というわけで、劇的な改善は見えたものの、そんなに甘くはないよというオチで今回は終わりたいと思います。
次回はちょっと趣向を変えた話題も交えて、入院生活外出編、別れと出会いについて語りたいと思います。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
興味がある方はポジオ愛読書の森田療法もどうぞ。
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